犬の予防接種は義務!致死率100%の恐ろしい感染症とは?

犬を飼う人全員の義務「狂犬病ワクチン」

犬を飼っている人であれば、3月下旬頃に狂犬病ワクチンのお知らせが自治体から届くはずです。飼い犬に狂犬病ワクチンを接種するのは、飼い主の義務です。でも、なぜ狂犬病ワクチンだけは必ず接種しなければならいのか考えたことがありますか?この記事では、狂犬病とその予防についてを書いてみようと思います。

狂犬病とは

狂犬病はとても怖いウイルス感染症です。「狂犬病」という名から、犬特有の感染症だと思われますが、実際は、人を含めたすべての哺乳類が感染対象です。人の場合は、感染後(感染動物に咬まれた後)にワクチンを接種すれば、発症を防ぐことができます。でも、そのほかの動物は残念ながら発症を防ぐことは難しく、発症した場合はほぼ100%死に至ります。人の場合も、発症してしまったら致死率は100%なので要注意です。

日本における狂犬病は?

日本国内における狂犬病について、人への感染(発症)は、1956年が最後といわれています。また、動物では、1957年にネコを最後に発生がないようです。英国、オーストラリア、ニュージーランドとともに、日本は狂犬病清浄地域として認められています

ただし、輸入感染というケースはいまだにあります。狂犬病流行国で犬に噛まれ、帰国後に発症した事例は、1970年にネパールからの帰国者で1例、2006年にフィリピンからの帰国者で2例、2020年にフィリピンからの入国者で1例あります。

世界的に見て、狂犬病がないとされている国は、数カ国しかなく、ほぼどの国でも狂犬病に感染する恐れはあるということになります。


典:厚生労働省 狂犬病の発生状況

感染経路は?

主に、狂犬病に感染した動物に咬まれることで感染します。動物の唾液中に排出されるウイルスが、傷口より体内に侵入することで狂犬病に感染します。ここで注意したいのが、狂犬病は犬特有の感染症ではないということ。先に述べたとおり、すべての哺乳類が感染するものなので、犬以外の動物に噛まれた場合でも、狂犬病に感染する恐れは大いにあります。

主な感染源動物は?

主な感染源動物は以下のとおりですが、なかでも特に犬から感染するケースが多いとされています。

アジア・アフリカ:犬、ネコ
アメリカ・ヨーロッパ:キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、ネコ、犬
中南米:犬、コウモリ、ネコ、マングース

海外旅行の際は、動物に触れないのが一番です。

人から人への感染は?

通常、狂犬病は人から人へ感染することはありません。厚生労働省の報告によれば、これまでに臓器移植による感染が認められているようですが、ごく稀なケースといえます。輸血感染も無いようなので、仮に狂犬病に感染している人と触れ合う機会があったとしても、心配する必要はありません。むしろ、無知による差別などが起こらないよう、こうした知識は最低限持っていて欲しいと思う今日この頃です。

狂犬病にも潜伏期間はあるの?

狂犬病にも、感染してから症状が現れるまでの潜伏期間はあります。ですが、狂犬病の潜伏期間は、定まっていないことが特徴です。動物の場合は、2週間~1、2ヶ月が平均のようです。人の場合は、1ヶ月〜3ヶ月が一般的とされていますが、長い場合には感染から1年〜2年後に発症した事例もあります。発症前に感染の有無を診断することができないのも狂犬病の特徴です。

人が感染した場合の症状

人が感染した場合、

  • 強い不安感一時的な錯乱、
  • 水を見ると首の筋肉がけいれんする(恐水症)
  • 冷たい風でも同様にけいれんする(恐風症)
  • 高熱
  • 麻痺
  • 運動失調
  • 全身けいれん

といった症状が起こり、最後には呼吸障害などを起こし、死に至ります。上述したように、感染後すぐに対処することで、発症を防ぐことは可能です。しかし、放置しておくとこういった症状が現れ、そうなった場合はほぼ確実に死亡します。

動物が感染した場合の症状

狂騒型と麻痺型の2種類の症状があります。

狂騒型

主に犬が感染した際は、こちらの症状が出やすいといわれています。狂騒型では、犬(動物)は極度に興奮し、攻撃的な行動をとるようになります。飲み込むのが難しくなる嚥下えんげ困難のほか、唾液の分泌量が増え、よだれを垂らすなどの特徴が現れ、7日間以内に死亡します。

麻痺型

麻痺型は、主に狂犬病に感染したネコに多く見られる症状とされています。攻撃的になり、噛みついたり、麻痺が起こったり、ふらつくなどの運動失調が特徴です。後半身から前半身に麻痺が広がり、嚥下困難にも陥ります。症状が現れてから、2~4日で死に至るといわれています。

日本では狂犬病ワクチンは「義務」

非常に恐ろしい感染症だということがわかった狂犬病ですが、日本では幸いなことに狂犬病は発生していません(輸入感染を除く)。それはなぜでしょうか?

日本でも狂犬病が流行した時代はあった

1950年以前の日本では、狂犬病により死亡する人や犬はたくさんいました。昔から狂犬病の恐ろしさは認知されていたものの、完全に取り締まるには至っておらず、度々大流行している時代がありました。

歴史的に見る狂犬病

日本における狂犬病を、歴史的に見てみると、平安時代の982年に著された医心方に、狂犬病の症状の記述があるほどです。かなり古くから認知されていたことが分かりますよね。もう少し現代に近づくと、江戸時代中期以降、狂犬病の流行が繰り返し記録されています。第1次世界大戦、関東大震災など、世間が混乱している時期に、狂犬病の発生件数は増えています。

野犬対策やワクチン接種などの実施が積極的に行われた1935年頃には、かなり発生件数は減り、15件以下となったようです。しかし、第2次世界大戦後の混乱期に再び発生件数が増え、1949年に76件、1950年には54件が報告されています。

狂犬病予防法の制定

日本では、1950年8月に、狂犬病予防法が制定されました。この法律が施行され、わずか7年という短期間のうちに、日本から狂犬病はなくなりました。ワクチン接種の義務化、野犬捕獲対策、狂犬病予防員の献身的な活動が功を奏した結果といえます。先人たちの努力があったからこそ、狂犬病撲滅が実現したということですね。

狂犬病予防法に基づいた飼い主の義務とは?

現在の日本では、狂犬病予防法に基づき、次の義務を飼い主に課しています。

  1. 現在居住している市区町村に飼い犬の登録をすること
  2. 飼い犬に年1回の狂犬病予防注射を受けさせること(※)
  3. 犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着すること

これら義務を怠った場合、どうなるかというと、飼い主は20万円以下の罰金対象となります。飼い主は金銭的負担で済みますが、登録されていない犬、狂犬病の予防注射を受けていない犬、鑑札や注射済票を装着していない犬は、捕獲・抑留の対象となってしまいます。つまり、最悪の場合は殺処分されてしまう可能性があります。

※獣医師の判断により狂犬病予防接種が免除された場合を除く

私もちゃんと登録&予防接種してるわよ

なぜ犬にだけ狂犬病予防注射が義務付けられているの?

ここまで読んだ人なら、狂犬病は犬だけの感染症ではないことを理解しているはずです。ネコでもネズミでも哺乳類であれば、狂犬病に感染する恐れはあります。でも、なぜ犬にだけ狂犬病ワクチンの接種が義務付けられているのでしょうか。

特にアジアなどの流行地域での主なまん延の原因は犬です。世界中で狂犬病に感染する人の9割以上が犬から感染していることを見ても、犬の狂犬病をコントロールすることが有効であり、効果的であると考えるからです。

主な感染源とされる犬に対し、狂犬病のリスクを軽減してあげることで、ほかの動物への感染も予防できるということですね。

狂犬病予防接種は定められた期間内に必ず受けましょう

日本国内には狂犬病の発生はありません。ですが、近隣諸国では狂犬病がまん延しています。日本への本病の侵入リスクはゼロではありません。犬を飼われている方は、社会に対する責務として、犬の登録と年1回の狂犬病の予防注射を必ず行いましょう。

狂犬病の予防接種期間は、4月〜6月です。詳しくは、お住まいの自治体や、かかりつけの動物病院に問い合わせてみてくださいね。

狂犬病のほか、フィラリア予防薬や血液検査など、ペットの記録ができる手帳なんてのもあるので、かわいい我が子の健康記録に一冊持っておいても良いと思いますよ。

余談ですが・・・

私が子どもの頃(昭和50年代)は、まだ都内でも「野良犬」はたくさんいました。親からは「野良犬や野良猫には絶対に触るな」と教えられていました。その頃は、世間一般でも狂犬病の恐ろしさが広く知れ渡っていたからなんでしょうね。

平成・令和の時代に、都内で野良犬はまったく見かけませんが、地方へ行けばまだまだ野犬はいます。かつて日本でも狂犬病が大流行した時代があることを知らない人たちが親となった今、「野良犬や野良猫には触ってはいけない」と教育することはあるのでしょうか?なんだかちょっと不安です。日本は狂犬病洗浄国ではありますが、いつ何時、どこから持ち込まれるかわからないですからね。。。